ドラムでメロディを演奏する

打楽器の打楽器性とはなにか。音程がないこと、メロディを奏でることを目的としていないこと、メロディ楽器に輪郭をつけることなど、様々な言い方をすることができる。

実際にはピアノやビブラフォンも打楽器であるため、打楽器という分類では上のような説明は正しくないといえるが、ドラムのスネアやシンバルなどを想像したとき、この説明はまさしく正しい。今回はドラム(セットに限らない)に絞って話を進める。

 

ドラムは本来、明確に音程を持たない噪音を出す楽器である。噪音広辞苑第六版には、「非楽音に同じ」とある。そこで非楽音を調べると、「振動が不規則であったり、きわめて短時間しか継続しなかったり、振動の変化が急速であったりして、特定の温厚を定められない音」と記述されている。これはまさしくドラムをはじめとする打楽器が出す音だ。

先にも述べた通り、ドラムにはさまざまな役割がある。メロディ楽器のリズムに輪郭をつけたり、ダイナミクスをつけたり、空間を演出したりなど、ドラムひとつとっても目的によってアプローチがかなり変わる。

ベイビードッズの演奏は、メロディ楽器にリズムをつけている良い例だ。


BABY DODDS - "At The Jazz Band Ball"

 

これがスイング時代になると、ダイナミクスもより重視されてくる。ときにブラシを使ったり、管楽器に対して合図出しをする役割も持つ。


Duke Ellington, "Take the A Train"

 

ポールモチアンは上記のような役割に加え、空間の演出も意識しているような演奏だ。空間はダイナミクスの延長ともいえるので、妥当な進化だ。


Paul Motian Trio ~ Body And Soul

 

このように、ドラムは基本的にフロントの伴奏として色々なアプローチができるようになっているが、これらはすべて、ドラムの噪音を用いたものである。タイコは倍音が多すぎて、普通にチューニングするようでは明確な音程を得られない。

だが21世紀になって、こうした打楽器の打楽器性を打破しようとするドラマーが現れた。それがニューヨークを中心に活動するAri Honig(アリホーニグ)だ。

この動画ではMoanin'のテーマのメロディをドラムで演奏し、ソロもとっている。


Ari Hoenig at GWU, Moanin

 

弾き語りではなく叩き語り。


Ari Hoenig - This Little Light of Mine (solo)

 

メロディを奏でることを想定していない打楽器を用いているため、ピッチはかなり微妙だが、たしかにメロディを演奏している。ドラマーには越えられないと思われた壁を越えているのである。レッスン動画では実際にスケールにのっとってソロを演奏したりもしている。

初めてアリホーニグの存在を知ったときは興奮した。ドラマーが考えても実際にはできないことを彼は実行しているのだ。全体で見ればイロモノのパフォーマンスのようなものだが、理論上はドラムもフロントやピアノ、ベースと同じようなソロが取れるという事実は大きい。

 

だがこのような発想自体は、素人でも思いつきそうなものだ。実際に正確なピッチを出すことの困難さから誰も形にしなかったのだろうが、その片鱗くらいはアリホーニグ以前のドラマーにみられてもおかしくないのではないか。そして見つけたものがこちらである。

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これはエルビンジョーンズとリチャードデイビスが1967年に出した『Heavy Sounds』というアルバムだ。

4曲目に収録されているSummertimeは、エルビンとリチャードのデュオとなっている。リチャードのおどろおどろしいアルコに耳を奪われるが、エルビンのマレットによる伴奏にも注目していただきたい。

マレットでドラムを叩く場合、スティックで叩くよりもアタック音が出ないため、より音程がはっきりとする。そのため、これだけ空間がスカスカのソロ裏でマレットを用いてバッキングするなら、タイコのピッチがおかしいと変に聴こえてしまう。エルビンは、楽曲のメロディに合わせて、適切な音程を意識してチューニングをした可能性が高い。以下の記事にも、エルビンがメロディを意識して繊細なチューニングをしていたことが書かれている。

flophousemagazine.com

したがって、テーマやソロを実際にとることでアイデアを形にしたのはアリホーニグが初めてだが、その50年ほど前から、本来は噪音を出すためのドラムに関してピッチを意識したアプローチがされていたことがわかった。ちなみにこれ以前だと、テーマのフレーズを意識したソロなどは多く演奏されているが、メロディの音程に沿ったアプローチは見つからなかった。

エルビンはThe Drum Thingという曲でも、ドラムにしてはメロディアスな演奏をしている。バッキングやソロのアプローチといい、シンバルサウンドといい、かなり先見性のあるドラマーであり、同時に後のどんなドラマーも真似できないスタイルを持っていたといえる。

 

余談だが、日本でもドラムでメロディを演奏するという発想の片鱗をみせたドラマーはいる。音楽的にも非常に良い作品であるため、この場で紹介しておく。

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The Dialogue - 猪俣猛 より、The Dialogue with Flute

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Liquid Blue - ケイ赤城トリオ より、Winter Light

 

【追記】

私が最も尊敬するポールモチアンが似たようなことをやっているのを見つけたので貼っておきます。

https://youtu.be/u9dcb6tijuo