2022-01-01から1年間の記事一覧

天才と勇気

告白と嘘は同じものである。告白できるのは、嘘をつくからだ。人はありのままの自己を表現することはできない。まさにそうであってこそ人間だからである。(カフカ『断片』) 思想に値札を付けることが出来るかもしれない。値段の高い思想もあれば、安い思想…

否定(3)

シュミットと三木の思想には、多くの共通点を見出すことができる。一方で我々は、両者の間に決定的な差異が存在していることもまた確認することになる。 まず両者は、敵の規定を思想の根底に置いているという点で共通している。シュミットの狙いは言うまでも…

否定(2)

三木清は、西田幾多郎に師事し、いわゆる京都学派を構成した哲学者として知られている。彼はドイツでハイデガーの薫陶を受け、パスカルの人間学と唯物史観の再解釈をもって日本思想界の寵児となるも、1930年(昭和5年)に日本共産党への資金援助の嫌疑で検挙…

否定(1)

ウルシャナビよ、この草は危機〔をこえるため〕の草だ。 それによって、人は生命を得る。 『ギルガメシュ叙事詩』月本昭男訳 神はまた人の心に永遠を思ふの思念を賦け給へり 『伝道之書』 我々は通常、多かれ少なかれ何らかの危機に直面している。それはごく…

正しい生き方

全部偶然なのだろう。将棋の名人が他のゲームや、あるいは数学のような分野ではなく将棋で活躍していることにも、天才的な芸人が印刷工になることをやめてお笑いの学校に入ることを決めたことにも、必然的なものは何もない。だから、何らかの極めて優れた才…

セカイ系の意義など

庵野秀明が紫綬褒章を受章したということで、久しぶりに『新世紀エヴァンゲリオン』を観た。 本作は登場人物の抱える個人的な困難と世界の危機という壮大なテーマとが結びついている、セカイ系と呼ばれるジャンルの先駆けとして知られるもので、いわゆる通常…

注釈的態度

「学生と話していると、今の若い人がどれほど禁欲的に他者の内面に踏み込むことを悪と感じ、忌避しているかがわかって驚くことがある。」 との投稿を見かける。 私も同年代の人と話していると、私としては何も思わないような言い回しでものを言った後に、慌…

生音

生の演奏に勝るものはない、というのは、多くの音楽好きが同意するところだろう。もっと言えば、生音で、つまり機材を使って増幅したのでない自然の音で演奏される音楽を聴くことは、何にも代えがたい体験である。生音の至高性を理解しない音楽ファンの言う…

隙/恐怖

アメリカにいたときかその後くらいから、人が話すこと、主張する内容の「隙」を見るようになったような気がする。 どんなに厳密に構築された主張にも必ず「隙」がある。それはゲームのルールが何なのかを把握し、そのルールがなかったら?と考えるような思考…

神と人間について

キリストの思い違い。——キリスト教の開祖は、人間は何にもまして深くその罪に悩むものだ、と考えた、——それはキリストの思い違いだった、自分を罪がないと感じた者、この点での経験に乏しかった者の思い違いだった! 彼の心はあの不思議な幻想的な憐憫に充た…

春の やさしさ の うわべ もの書き 気高く 空をつかむ 顔なき赤子 遠く あざ笑う 雄弁には 雄々しき 輪郭 が 纏われたままに ある

かすむ視界の端の頭を持ち上げつつある金色の葉の輝き伝う雨露の歓びの恐怖

切実さ

演劇は切実に演じようとするほど切実ではなくなっていく。だから素晴らしい演技はしばしば無表情であったりする。ロベール・ブレッソンはこのことに少なくとも気が付いてはいた。 詩についても同じことが言える。自らの意識とか感性とかいうものをリアルに表…

メソッド

何かを成し遂げるためのあらゆるメソッド・ノウハウの中で最も重要なのは、「とにかくやる」ということだ。この観点が抜けていては、どれだけ的確なメソッドであっても意味がない。 とは言っても、「とにかくやる」はただがむしゃらにやることではない。自分…

美文

美しい文章には必ずある種の独断がある。これは美文の性質か、それとも美の性質か?

雪の降る日

地下室でぼくの頬をなでようとした その傷だらけの手は 首を絞めることを厭わないのに 触れることさえためらう こどものように歌ってみても きみは 泣くことも笑うこともできない きみがつまずいてみてできた傷は その手の傷とは似ても似つかない 夢から夢へ…

史学の意義

私は思いついたことを何でもノートに書き留める習慣がある。普段は書いてそれっきりなのだが、先日ふと思い立って2年ほど前のメモを読み返すと、「ロックは単純観念から複雑観念が原子が分子を構成するようにできていると言ったが、正確には単純観念からある…

霊感

人生において何か追い求めていたことが成就して、そのために自らの探究が中断されるということがあり得るのか? 例えばスピリチュアルに傾倒していた人が高校以来想っていた人と再び結ばれたときに、そこで彼にとって精神世界が意味を失うのはなぜなのか。 …